「………………」
「………………」

熱帯夜、寝苦しくて目を覚ましたら
首に刃物が突き付けられていた

「……………」
「……、………」

互いに無言
けれど片や殺されそうで、
もう片方は殺気立ってはいるものの呼吸が乱れているのか、時折辛そうな声を漏らす


………今この状態で辛いのは俺のほうだと思うんだが


一向に喋ろうとしない不審者に、いい加減眠さの限界が訪れた俺は口を開いた

「………なぁ、俺になんか用?」
「っ、…………」
「俺アンタみたいな刃物持ち歩くやつ知らないし、殺される…かは知らんけど、
こういう状態になる理由がわからん」

とりあえず、眠いから用があるなら朝になってからにしてくれ

そう呟きながらも意識は緩やかに眠りの世界へと落ちていく


意識が途切れる瞬間に、首に突き付けられていた刃物が遠ざけられたような気配と

「っ………」

泣きそうな、辛そうな声を聞いた気がした






――――翌朝

「……………夢オチ、期待したんだけどな…」

目覚めた俺が見たものは、
ベッドにいる俺から一番遠い壁際にうずくまる黒い塊だった

俺の呟きに勢いよく頭を上げたそいつは、室内なのにメットを被っていた

というか服装が変だ
何だアレ、忍者か何かか?
そんなことを考える俺の目の前で、奴は背からすらりと刃物を抜き―……

「………またこの体勢か」
「……………っ」
「ま、これで話が出来るなら俺はかまわねーけど……アンタ、どっから来たんだ?」

何で俺の家にいる、と真っ直ぐ目を……いや、相手はメットだから目線があってるかはしらねーが…
とにかく、相手を見上げながら尋ねれば、
奴は口を開いて、再び口を閉じると首を横に振った

「わかんねーのか?どこから来たのかさえも」
「……………」

今度はコクリと縦に首を振る忍者っぽい奴は、
俺から刃物を外して背にしまうとベッドから下りて床に座り込んだ

(人見知りの迷子犬だな、こりゃ……)

しょぼくれている様子や小さな物音にもびくつく様は迷子で心細くなった子犬の様で……

「…………しゃーねぇなぁ、家が見つかるまで面倒見るか」
「っ!?」
「とりあえず、衣食住の保証はしてやるよ……早く家、見つかるといいな?」

に、と笑いながらメットの上から頭を撫でてやれば、
放心していたのか、慌てて俺から離れて部屋の隅に逃げていった

………犬じゃなくて猫だったか?



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