迷子犬を拾った朝から早一ヶ月

喋れないらしいので筆談による事情聴取をしたところ、
迷子の名前が風魔小太郎であること
元いた世界は戦国時代であること
目の前で閃光弾?が炸裂して、気付いたらここにいた

ということが判明した
他にも色々書いては貰ったんだが、文字が達筆過ぎて読み取れなかった


とりあえず、帰り方が判らないらしいので暫く預かることは確定したわけだが

「小太郎、買い物いくぞ」
「……………」

猛暑の真っ昼間に家から出るのは好きじゃないんだが、
小太郎が夜だと警戒しまくって進まないから仕方がない

まぁ、闇夜に乗じて何かやらかすような時代から来ているんだから
警戒するなという方が酷というものか

服装も最初は着替えろといっても聞かなかったんだが、
長袖の上着を見せたら着替えていた……中に何やら仕込んでいたのには呆れたが

因みにメットはグラサンとキャップを貸すことで解決した
基準が判らないが、目が隠れればいいらしい

「米と肉と野菜……以外に食いたいもんあるか?」
「………っ!」
「ん?あぁ、それな……良いぞ」

カゴに必要なもんを放り込みながら隣を歩く小太郎に尋ねれば、
俺の服を引きながら指差したものはフルーツ入りのゼリーだった

食感が好きなのか、それとも他に理由があるのか不明だが、
体育座りで食べる様は小動物の様で少し和んでいるのは本人には秘密だ

「……よし、買うモン買ったし、帰るか」
「……………」

右肩に米、左手に肉と野菜の俺と、両手に根菜やら果物やらを持った小太郎
一人から二人に増えたから仕方が無いとはいえ、
ほぼ毎回大荷物になるのは困ったもんだ……しかも暑いし


少しブツブツ言いながら歩いていると、いきなり小太郎が立ち止まった

「小太郎?」
「っ…………」

振り向いた先にいた小太郎は、荷物を道に置いて俺の背後を睨んでいた…ように見えた

「オイ、小太郎どうした?」

俺の後ろに何かいるのか、と続けようとしたときだった

「あれぇ、チーフじゃん……このクソ暑いのに米担いだりしちゃってどしたの?」

背後からかけられた声、それは…

「佐助……」

職場に来るアルバイト、佐助からだった


突然現れた佐助はひらひらと手を振りながら、このクソ暑いのに涼しい顔をして近づいて来た

「暑いの大嫌いなチーフにしては珍し………っ、ちょ、何アンタ!」

得意の営業スマイルを顔に貼り付けた佐助に、何を考えたのか小太郎が襲い掛かった

「っオイ、小太郎!?」
「……………!!」

ダンッ、と壁に押し付けられた佐助の目つきが変わったのを、
俺は見ているだけで何もしなかった……いや、出来なかった
自慢ではないが、おれは反射神経も順応能力も人並み以下だ


現実逃避しかけた俺を余所に、なんだかよく判らない事態は続いていく

「いっ……たいな、何な訳?ていうかアンタ誰よ?!」
「っ、……」
「ちょっと、聞いてんのに答えないつもり?
一体どういう教育受けたんだよ!っていうかチーフ!コレ何とかしてくれない!?」

俺様大迷惑なんだけど!と怒りをあらわにして佐助は俺のほうを見ていた
状況に付いていけていなかった俺は、佐助の台詞で漸く我に返る

「あ、おう…悪い……小太郎、とりあえず離れな」
「………!」

ひょいっとシャツの首をつまんで小太郎を佐助から引きはがせば、
不満げに小太郎が振り向きながら何かを訴えようとしてきた

「あーはいはい、話は帰ったら聞くから
……悪かったな佐助、次バイト来たときに詫びするから」
「イテテ………あ、了解〜楽しみにしてる
…………じゃあね、チーフ…と誰かさん☆」
「っ!!」
「っ、小太郎!」

せっかく引きはがしたのにまた飛び掛かろうとした小太郎を後ろから抱え込むと、
佐助が笑いながら一歩、小太郎に近づいて何かボソリと呟いた

「佐助?」
「なんでもないよ、チーフ
……ただ、チーフに迷惑かけないでよね、って言っただけー
チーフがいないとあのお店大変なことになるもんね?」

じゃあね、と再びニッコリ笑ってから佐助は立ち去った

何だったんだ、一体

そして小太郎が突然大人しくなったのに首を傾げつつも、
俺は気を取り直して家路を辿ることにした



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「……閃光弾の騒ぎに乗じて逃げたと思ってたのに、まさかこの時代に来てるとはね………
一ついいことを教えてあげるよ、この時代から、元いた時代には戻れないよ
…俺様、アンタが現れるんじゃないかと思ってずっと探してたから」
「………!」
「なんでそんなこと知ってるか、って?
……それは俺様が、あの時代のことを覚えているからだよ、何度生まれ変わっても……ね」
「!?」



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